黄泉の本屋さん
「ありがとうございます」
「面白い話ではないぞ」
「いえ。人の人生、つまらない物語なんて一つもありませんよ」
「・・・そうか」
「はい。お話を聞いたら、息子さんの様子を見に行きましょう」
浅葱の温かさに、すっかり毒気を抜かれた様子の徳永さん。
頑固親父も浅葱のほんわかさには脱帽か。
「・・・息子信一は、ずいぶん歳がいってからの子どもだった。妻は10下で、その上なかなか子供が出来んでな」
「じゃあ、可愛かったでしょうね」
「そうだな。可愛くて仕方なかった。だが、俺は思ったことが表に出せん口下手な性格だ。うまく可愛がってやることができなかった」
怒鳴り込むように入ってきた徳永さん。
そして、照れてぶっきら棒になった徳永さん。
それを想うと、なんとなく想像ができた。
「高校を卒業して、大学に入ったが、突然俳優を目指すと言い出した。俺は、頑なに反対した。あいつの話をろくに聞いてやりもせずに」
「俳優に・・・」
「あんなもの、そんな簡単になれると思えない。苦労するのは目に見えてる。でも、あいつは反対を押し切り家を飛び出してった」