黄泉の本屋さん
そんなことがあったとしても、おかしくはない。
浅葱はこんなに優しい人だし。
きっと、その奥さんもとてもすてきな人だったんだろう。
私は、浅葱が生きていた時に側にいなかった。
同じ時間を生きることはできなかったのだから。
そういう人が、生きている間にいたとしても不思議はない。
「奏音さんの事は、本当に大切に想ってる。でも」
「・・・わかってる。浅葱は、忘れてたんだもん。覚えていたのなら、私の事を大切に想う事なんて、きっとなかったよ」
「奏音さん、違うよ。それは、違う。あなたとの日々に、救われていたのは事実なんだ」
仕方ない。
だって、浅葱の記憶を戻そうと決めたのは自分。
浅葱を助けたいと思ったのは、他の誰でもない、自分自身なのだから。
私が、誰かを責める資格なんてない。
浅葱が、他の誰を大切に想っていたとしても。
私が責める資格なんてないんだ。
それに、私はここにはいられない存在。
いずれ、浅葱の事さえ忘れてしまう存在なのだから。