黄泉の本屋さん
「ですが、逃げていては、奏音さんはいつまで待っても戻ることはできません」
「浅葱といれるなら、私それでもいい!」
「奏音さん!」
「だって、全部思い出したら私、ここにいられなくなるんでしょう?そうしたら私、ここでのこと全部忘れちゃうんでしょう?」
そうだ。
私が戻らなければいい。
ここにいさえすれば。
浅葱の事も、ここでのことも全部忘れずに済む。
これからもずっと、ここで浅葱の手伝いをする。
きっと、そうするしかないんだよ。
「だめです。あまりこちらにいると、奏音さん、あなたは本当に死んでしまいます」
「それでも、私は浅葱といたいの!」
「奏音さん!」
左の頬に、鋭い痛みが走る。
パシン、と頬を張る音が響き、私は目を見開いた。
そっと、頬に手を添える。
ズキズキする痛みを感じる。