黄泉の本屋さん
「奏音さん・・・?」
浅葱の声に、現実に戻る。
目を開くと、浅葱が心配そうに見つめる。
何度か目を瞬くと、涙の滴がポロポロと落ちた。
「思い・・・出した・・・」
「そう・・・」
「全部、嘘だった・・・。温かい家庭も、優しい家族も。・・・いなかった」
あの日。
優しいお母さんに見送られ、優しいお父さんと一緒に登校してたのは。
全部、私の妄想・・・願望だった。
現実は、朝からいつものごとくはじまった夫婦げんか。
それが飛び火して私はお母さんと言い合いになった。
お母さんは、「あなたなんか、産むんじゃなかった」
そう言った。
だから私も、「産んでくれなんて頼んでない」
そう言いかえした。
それが、現実だ。