黄泉の本屋さん
あの人の名を聞いても、写真の姿を見ても、気になりはすれど思い出しはしなかったのに。
そこに来て、突然。
私が、死に近づいたからなのかしら。
そう思ったのに、それからずいぶん長生きしてしまったわ。
そう。
それで、思い出したのよ。
彼らと過ごしたあの日々を。
まるで夢のようにも思えるあの日々を。
初めて好きになった、彼。
篠ノ井浅葱の事を。
私は、浅日さんに打ち明けた。
泣きながら。
信じてくれないかと思ったけど。
さすが物書きさんというべきかしら、いいえ、浅日さんの人柄でしょう。
彼はすぐに信じてくれた。
「初めに会った時、言っただろう?父を知ってるのって」
彼は、そう言って笑ったの。