黄泉の本屋さん
その視線の先を私も見た。
そこには、手に花束を抱えた女の人。
どこか見覚えのあるその人が、亜紀さんだと気付くのにそれほど時間はかからなかった。
ウエディングドレスを着ていた頃と比べると、少し大人びていて時の流れを感じる。
記憶を失うほど長い時間過ぎてしまったんだもんね・・・。
でも、面影のしっかり残ったその人はこちらに向かって歩いてきていた。
「黒瀬さん・・・!」
「は、はい・・・。彼女です。亜紀・・・」
目を輝かせて喜ぶ黒瀬さん。
よかった、喜んでくれてる。
女の人は私たちのいる交差点に歩み寄ると、手に抱えていた花束をその隅に置いた。
そして、そのまま手を合わせて祈り始めた。
黒瀬さんには気づかない。
こんなに近くにいるのに・・・。
黒瀬さんは、彼女を温かい瞳で見つめていた。
見ているだけなんて・・・。
でも、やっぱり彼女には黒瀬さんの姿は見えない。
それが、現実なんだ・・・。