めんどくさがり系女子の恋愛事情
たぶんこの部屋だな…
音の元である部屋の前に辿り着く。
そんなに長い廊下ではなかったのに、
静けさと知らない人の家であるせいか
何十分も時間をかけたように感じた。
よし…。
少し緊張しながらふすまを開けた。
目に飛び込んで来たのは、
「うわー…!」
おいしそうな朝食だった。
朝はあまり食べないけど、昨日は夜ご飯を食べてないから
すっごくお腹がすいている。
朝食に気をとられてると、台所に立っていたであろう人が私に気づいた。
トントンという音は止み、こっちに向かってくる。
台所から出てきて、
「あぁ、起きたのかい?お嬢さん。」
と声をかけてきたのは、優しい雰囲気のおじさんだった。
年齢は40歳くらいだろうか。
短く切り揃えられた髪型は若さを感じるから、30代と言われても驚きはしない。
でも何となく、この人は40歳で
私は過去に会ったことがあるような
そんな気がしてしまった。
何も言わない私を見て、具合が悪いのかと聞いてきたこの人に慌てて首を横に振る。
懐かしい気がするのは、おそらく気のせいだろう。
そう結論付けた私は大事なことを思い出した。
「あ、あの!」
突然声を出したので、その人は驚いたようだったが
構わず言葉を続けた。
「助けていただきありがとうございます。」
深々と頭を下げる。
すると慌てて私にかけより、
「そんな、いいから。
顔を上げて。
僕がしたくてやったことだから気にしないで。」
と言った。
恐る恐る顔を上げると、目が合った。
よく見ると、顔も整っていてイケメンだ…ってそうじゃなくて。
やっぱりきちんとお礼をしたい。
が、その前に名前は聞かないと。
「あの、失礼ですがお名前は…?
あ、私は青山夏美です。」
「…高橋永人(たかはしながと)です。」
「永人さん、
ほんとにありがとうございます。」
「もういいって。
それよりお腹すいてないかい?
あまり料理は得意じゃないんだけど作ったから
よかったら食べてよ。」
料理は得意じゃないというのは謙遜だろうか。
あんなにいいにおいがしてるのに、おいしくないわけがない!
…でも助けてもらって、
きっと駅からここまで運んでくれて、
布団で寝かせてもらったのに
さらにご飯までいただくなんて
さすがに迷惑をかけすぎてしまっている。
そう思い、断ろうとした。
「…ありがたいですけど、そこまで甘えるわけには」
グーー
話してる途中で、突然音が鳴った。
…なんでこのタイミングで鳴るのさ、私のお腹!
永人さんも笑いを必死に堪えてるし、
恥ずかしいなぁ、もう…。
でも体は正直で、あのおいしそうな食べ物の誘惑に敵うわけもなく
「…いただきます。」
私は素直に永人さんの言葉に甘えた。