めんどくさがり系女子の恋愛事情
永人さんの料理はどれもおいしくて、
気がついたら皿の上のものをペロッと食べてしまった。
…ふと気がついたけど
「永人さんは朝ご飯食べないんですか?」
彼はコーヒーを飲みながら、私が食べている様子を見ているようだった。
もしかしてこれは永人さんが食べる分だった?
そうだとしたら申し訳ない。
謝ろうとしたが、それは永人さんに止められた。
「何か勘違いしてるようだけど、
僕はもう食べたんだ。
仕事は朝早いもんでね。」
そっか、もう食べたのか…。
ちょっと安心。
「そうなんですか…。
お仕事は何をなされてるのですか?」
「すぐそこの畑で農業をしてるんだ。」
「農業…。」
たしかによく見ると指の爪は土のせいで黒ずんでいた。
肩からはタオルをかけ、
日焼けで肌が少し黒かった。
「僕の家系は昔からここで農業をやっててね。
もちろん両親もやってたから、本来は長男である僕が継ぐはずだったんだ。
でも若い頃は、農業なんて…って猛反発して、都内の会社に勤めてたよ。
田舎者の僕には何もかも新鮮で、農業よりよっぽどやりがいがあった。
でも…
僕は大切な人を傷つけて、裁判沙汰になってしまったんだ。
会社はクビになって、実家に帰ったけど
すぐに新しい仕事を探す気にはなれなくて。
家にいてもやることがないから、仕方なく親の手伝いをしてたんだ。
そしたら思っていたよりも、楽しいことに気がついて。
それで今に至るんだ。」
「そうだったんですか…。」
目の前にいる永人さんの優しい顔からは、誰かを傷つけるような人には見えない。
それに助けてくれたし…
でもきっとその頃の永人さんにも、いろいろあったんだろう。
大切な人を傷つけてしまったかもしれないけど、彼だって苦しんでいたんじゃないかな…
黙ってしまった私に永人さんは申し訳なさそうに言った。
「ごめんね、こんな話をして。
夏美ちゃんには関係のないことなのに。」
「いえ…。
私も大切な人を傷つけたことがありますから。
…私たち、案外似た者同士かもしれませんね。」
ふっと笑うと、私は自分の過去を話し始めた。
どうして初対面の人に、いろいろと話してるのか自分でも不思議だった。
でもなぜか
彼なら何を話しても受け止めてくれそうで、
今の苦しみから抜け出せるような助言をもらえそうで。
私は彼に今までのことを話した。
母さんを殺してしまったことから
友達をなくしたことまで。