めんどくさがり系女子の恋愛事情
話し終えると、永人さんは少し考えてから
言葉を選ぶように話し出した。
「…それは辛い思いをしてきたね。
僕がこんなことを言っていいのかわからないけど、
お母さんが亡くなったのは決して君のせいじゃない。
そのことで今も責任を感じる必要はないよ。」
「…きっと頭では理解してるんです。
でも、どうしても自分が許せないんです。」
「そっか…
それなら少しずつ自分のことを許してあげてよ。
君が幸せにならないと、お母さんも安心できないだろうし。
あとお友達のことだけど。
二人の話をきちんと聞いたの?」
他の人に言われても、素直には頷けなかっただろうけど
永人さんの言葉なら、自分を少しずつ許していこうと思えてしまう。
不思議だ…。
「…いいえ。
その会話を聞いてすぐにここに来たので…。」
チクリと胸が痛む。
あのときの怒りや嫉妬はいまだに覚えているようだ。
「それで駅前にうずくまってたのか。
なるほどね。
…どうしてここまで来たの?」
「…ここは母が生まれ育った町なんです。
母が亡くなったときもここに来て、今後のことをいろいろと考えたことがあって…。
今回も一人でゆっくり考えたかったんです。」
ここに来るのは久しぶりだったけど、
母さんの故郷だから、とても穏やかな気持ちになれる。
今の私には必要な時間だった。
「ここに来た理由はわかった。
それで今後はどうするつもりなんだい?
お友達とはもう話さないつもり?」
「…それはまだ…。
でも彼女は私のこと友達じゃないって言ってたし、
彼には想いを伝えられないし…。」
何度思い出しても桃に言われた言葉は泣きそうになる。
桃にとって私は一体何だったんだろう。
すると永人さんは予想外のこと言った。
「話を聞いてるかぎり、彼女は夏美ちゃんのことを大切に思ってるように感じるけどなぁ。」
「え…?
でも本人に直接言われたんですよ?
友達だなんて思ったことないって…。」
私はこの耳でしっかり聞いた。
桃の口からその言葉を…。
でも永人さんは納得してくれない。
「そうだとしてもきっと別の意味だろう。
これは僕の勘だから信憑性はないけど、
でも彼女のことは信じてあげてよ。
二人で過ごした時間に嘘はないだろう?」
「…たしかにそうですけど…。
でも今さら元になんて戻れないですよ。」
私がいくら元の関係に戻りたいと思っても
桃にその気がなかったら意味がない。
そんなの無駄なことじゃないか…。
「今すぐに元に戻るのは難しいだろうね。
でも、彼女は生きてる。
これからの人生の中で、彼女との関係を取り戻していったらいいんじゃないかな。
夏美ちゃんが強く願えば、きっと答えてくれると思うよ。」
『彼女は生きてる。』
私はその言葉にハッとした。
その口ぶりだと、永人さんの大切な人はもうこの世にはいないのかもしれない。
傷つけてしまったことを謝り、元に戻りたくても
相手がいなければ戻れない…。
でも私の場合は…?。
桃は生きてる。
桃の気持ちなんて私が変えればいいんだ。
いくら友達じゃないと言われても、
私は友達だと思ってる。
大切な人だと思ってる。
その気持ちを曲げなければ、いつか桃と仲直りできる。
永人さんの言葉が胸にしみる。
「…そうですよね。
桃は生きてる。
あとは私の気持ち次第ってことですよね。」
そう言うと、
永人さんは優しく微笑んでくれた。
きっと私の選択は間違えてない。
だって永人さんが気づかせてくれたから。
大切なのは自分の気持ち。
あとは前に進むだけなんだ。