めんどくさがり系女子の恋愛事情
「本当はわかってたんだよ。
夏美が桃華ちゃんと喧嘩してることくらい。」
「ウソ…。」
拓也さんに気づかれていたなんて。
でもどうして…。
「夏美、今までにないくらい落ち込んでたからさ。
これは何かあったなって思ってた。
それで今回は俺に頼ってくれるんじゃないかって期待してた。
…バカだよなぁ。
夏美は何でも1人で抱え込むやつだから、俺から言ってあげないといけないのに。
待ってるだけじゃ、何も言ってくれないこと、知ってたのに。」
そんなに夏美が落ち込んでいたなんて。
学校で見たときはいつも通りだったのに……いや、そうじゃない。
きっと夏美は自分の気持ちを必死に押し殺して、無表情を貫いていたんだ。
そういう人だって、私も知っていたじゃないか。
何も言わない私に、拓也さんは言葉を続けた。
「だから桃華ちゃんのせいじゃないよ。
悪いのは俺だ。
俺は夏美の兄貴失格だな。」
自嘲気味に笑う拓也さんは、スッと視線を落とした。
…それは違うよ、拓也さん。
あなたは何も悪くない。
「拓也さんは悪くないです。
この原因を作ったのは私なんですから
夏美が帰ってこないのは私のせいです!」
私のせいなんだ。
私が夏美にあんなこと言わなければ、
夏美を好きにならなければ…。
「…桃華ちゃん…
泣かないで。」
拓也さんの言葉にハッとして、目元をぬぐうと濡れていた。
…私、泣いてる…。
傷つけてしまったことへの後悔と、無事であることを祈る気持ちが混ざり合って
心の中はごちゃごちゃだ。
「ご、ごめんなさい…。」
「それは俺に言う言葉じゃないでしょ?
…早く夏美を見つけよう。」
拓也さんといい、夏美といい
この兄妹は人に優しすぎるよ。
その温かい優しさに、さらに泣けてきてしまった。
「ちょ、桃華ちゃん、なんで泣くの!?
まって、これ夏美にバレたら殺される…!」
急に慌てだす拓也さん。
その慌てっぷりに思わず笑ってしまった。
笑う私に気づいたのか、恥ずかしくなったようである拓也さんは立ち上がり、咳払いをした。
「ゴホン、とにかく!
今日はもう遅いから俺は帰るけど、
明日になったら探してみよう。
もしかしたら近くにいるかもしれないし。」
「はい!」
もうさっきまでの暗い雰囲気はない。
今ここでああだこうだ言ったって何も変わらない。
すべては明日。
何が何でも夏美を見つけて、
私の気持ちを全部伝えよう。
たとえ二度と夏美の友達に戻れなくても、
今の私がやるべきことは
「好き。」
この2文字を伝えること。
ただそれだけだ。
拓也さんが帰ったあと、すぐに睡魔が襲ってきた。
夏美の無事を祈りながら、私は目を閉じた。