めんどくさがり系女子の恋愛事情
今まで何度か抱きつかれたことはあったが
最近は避けるスキルが身についたので、こうされることは少なくなっていた。
今回は不意打ちだったからさすがに無理だったけど。
「拓也、ここ外だし、離れてよ。」
桃なんて口をパクパクさせてるし。
かわいい顔が台無しだから、早く直してあげたいのに。
そんな私たちにかまわず、抱きつく拓也。
しかしその様子に違和感を覚えた。
…肩が震えてる…。
もしかして泣いてるの?
「拓也?」
「ごめんな、夏美。」
突然の謝罪。
いったいどうしたんだ?
拓也は私に謝らなければいけないことをしたのだろうか。
まさか、私が楽しみにとっておいたプリンを勝手に食べた?
…なわけないか。
さすがにプリンのことで泣くほど謝るわけない。
それじゃ、何のことで?
私は戸惑っていたが、桃にはピンときたようだ。
まるでこれから言うことがわかっているのか、真剣な顔をしている。
そんな中、拓也は静かに話し始めた。
「夏美、ごめんな。
夏美の落ち込みようから、桃華ちゃんと喧嘩したんだなってわかってた。
でも俺はいつかお前が言ってくれると思って、何もしてやらなかった。
…こんなの、兄貴失格だ。
何のための家族だ。
何のための兄貴だ。
本当にごめん。
それから…
無事に戻ってきてくれてよかった。」
そう言うと、拓也は私を離した。
その頬には一筋の涙。
…知らなかった。
拓也がこんなこと考えていたなんて。
こんなに自分を責めていたなんて。
これは誰のせいでもないのにな。
「…拓也のせいじゃない。
たとえ拓也に聞かれていたとしても、私は何も話さなかったと思う。
だから勝手に責任を負うな。
それこそ兄貴失格だ。」
「夏美…。」
いつもうざいくらいに絡んできて
いつも過保護なくらい心配して
そんなやつが、普段見せない暗い顔すんなよ。
こっちの調子が狂う。
「心配かけたことは謝る。
本当にごめんなさい。
でも、勝手に落ち込んでた罰として…。」
「え、待って、この流れで罰?
ウソだろ…。」
がっくりと肩を落とした拓也。
最後まで話を聞かないのは悪い癖だな。
私は拓也の肩にポンと右手を置き、少し微笑んだ。
「罰として…
これからも私の兄貴でいろよ。」
今回ばかりは、私も反省してるから
このくらい言ってあげてもいいだろう。
うざいくらい絡んでくるのは拓也の優しさなのは知ってた。
母さんが亡くなったときだって、なんだかんだそばにいてくれた。
…ずっと感謝してたんだ。
拓也の妹になれて本当によかったって、ずっと言いたかったんだ。
でも面と向かって言うのは、やっぱり恥ずかしいから
こんな遠回しな言い方しかできないけど
これが私の気持ちだ。