わたしはみんなに殺された2〜贖罪の時〜
やめて。こっちに来ないで。
お願いだから、そのまま真っ直ぐ、廊下を進んでいってよ。
私は屋上に行きたいんだから。
こてんこてんと頻りに首を傾げる〈あの子〉の顔から滴り落ちた赤い液体が、床を濡らす。
…ドアに打ち付けた時の傷だろうか。
前見た時よりも、その姿がグロテスクになっているような気がする。
目がない時点で十分すぎるほどグロいのに、なんでそれ以上グロくするわけ?
その気持ち悪さで吐かせて、音を立てさせたいんだろうか。
ペタッ
…ひぃ!!!?
なんとか平常心を保とうとしていた思考が、その小さな音だけで掻き消される。
まずいまずいまずい!
〈あの子〉が一歩を踏み出したのは、間違いなく私の階段の方向だ。
どうする?
一か八かで全力で逃げてみる?
無理だ。音を立てた挙句追いつかれる未来しか見えない。
でも、このままでいるわけにもいかない。
だって、私は今階段のど真ん中にいるんだから。
人が2人か3人くらいしか並んで通れないこの狭い階段にこのままいると、ぶつかっておしまい、ただそれ一択だ。
ペタッ
〈あの子〉がまた、こっち側に一歩進んだ。
こうなったらもう、覚悟を決めるしかない。
グッと拳を握りしめて、私は左足をそっと動かした。
ほんの少し、左側へ。
足をスライドさせてから、〈あの子〉の様子を伺う。
相変わらずニタニタ笑いながら血を垂れ流しているけれど、変わった様子はない。
今のは音が出なかったか、もしくは聞こえなかったか。
どちらにせよ、セーフだ。