わたしはみんなに殺された2〜贖罪の時〜
ペタッ
次は、右足だ。
左にスライドさせた左足を追うように、右足も移動させる。
少しだけ、自分の体が階段の中央からズレた。
〈あの子〉はまた、こてんと首を傾げた。
ボタっと、何か液体が下に落ちた影が見えた。
ペタッ
…見るな。
落ちたものが何かなんて容易に想像がつくけれど、見てしまったら動けなくなりそうで、必死に視界から外す。
見るな、見るな!
移動することだけに集中しろ!!
自分を叱咤する声を出す代わりにグッと唇を噛んで、また同じことを繰り返す。
左足を左に出して、右足を引きつけて…。
少しずつ、だけど着実に、気付かれず横に移動はできている。
〈あの子〉はもう、階段を降り始めようとしている。
ペタッ
〈あの子〉の足が、四階の一段下を踏みしめた。
無理だ。これ以上は動けない。
最後に体を右側に向けて、静止する。
流石にこの距離では、これ以上ほんの少しでも動けば気付かれてしまう気がした。
〈あの子〉は幸か不幸か、若干右側に寄っている。
だから左側に寄ってやりすごそうと決めたのだけど。
フラッと彼女がこっち側にズレないことを願って、彼女を注視する。
それから、少し後悔する。
どうせなら、逆を向けばよかった。
人間って横幅より縦幅の方が薄いから、壁に背を向けて壁に張り付くような形になったけど。
〈あの子〉のいる側を向いたから、嫌でも〈あの子〉を見続けることになってしまった。