わたしはみんなに殺された2〜贖罪の時〜
ペタッ
〈あの子〉の頭が、ついに目の前に差し掛かる。
触れてはいない。
けど、その距離は30センチもあるかどうかだ。
今〈あの子〉が何かを思って腕を横に広げたなら、確実に私にぶつかってしまう。
そんな不規則な動きをしないことを心の底から祈って、目だけで〈あの子〉の姿を追う。
〈あの子〉の身長は私よりもだいぶ低く、私の胸元の高さを長髪の頭がゆったりと通り過ぎていく。
その長髪の向こう側に、大きく凹んだ後頭部が見えた。
真上から見下ろす形になってしまった今、息なんて吐き出そうものなら〈あの子〉にかかってしまいそうだ。
緊張と重圧で押しつぶされそうな中、〈あの子〉の足が、またゆっくりと動く。
このままいけば、気付かれずに済む。
いける。
この状況を、乗り切れる………!
ペタッ
「……っ…!?」
〈あの子〉が通り過ぎかけて、気が緩みそうになったその瞬間だった。
スッと…ほんの少し。
私の膝に、何かが掠めた。
小さな小さな、普段は気にも留めない刺激だったけれど、私の頭を一瞬で真っ白にするには十分すぎるほど大きな刺激だった。
…わかってる。
今の状況で掠めるものなんて1つしかない。
ゆっくりと、通り過ぎようとしていた〈あの子〉がこちらを振り返るのを、ショートした頭で見つめる。
今膝を掠めたのは…〈あの子〉の、スカートの裾だ……!