わたしはみんなに殺された2〜贖罪の時〜
「……えっ?」
目の前に、〈あの子〉はいなかった。
…あれ…え?
状況が飲み込めないまま、瞬きを繰り返す。
その視界の端にスイッと階段の柵の向こうを横切る影が映って、慌てて柵から身を乗り出してみる。
すると、〈あの子〉が、ちょうどペタン!と軽快に足を鳴らして三階に降り立ったのが見えた。
…まさか、気付かれなかったっていうの?
っていうか今、私、声出しちゃったし。
この静かな空間に、その声が響いていないはずがない。
それでも〈あの子〉はすっかり私に興味を失ったかのように、キョロキョロと辺りを見回してから、とてとてとまた階段を降りていった。
完全に〈あの子〉が見えなくなって、その場で呆然とする。
私……助…かった、んだよね?
あんなに、至近距離にいたのに…。
「!っすうぅっ……はぁぁぁっ………!」
ホッとしたからか、息を止めていた息苦しさをやっと思い出して、大きく深呼吸をする。
今のは……ダメだよ!!
こんな調子じゃ、殺される前に精神的に死んでしまいそうだ。
今までの人生で一番大きい緊張感と恐怖を、今この一瞬で一気に味わった気がする。
昔学校行事でやらされた持久走の後よりもドッと疲れが押し寄せてきて、階段を登りきることもなく、背にしていた壁を頼りにズルズルと座り込む。
心臓が急激に稼働しすぎて、ズキズキと痛い。
はぁ、はぁと荒い呼吸を繰り返しながら、身体の熱が冷めるのを待つ。