わたしはみんなに殺された2〜贖罪の時〜
「俺は転校してきたばかりだし、お前があってたいじめとか、むしろお前のことすら、ぜーんぜんこれっぽっちもわかんねぇけど」
言いながら、狛は私のいる暗闇に足を踏み入れた。
彼の顔も影になって、どこか不気味に見える。
十分近くまで来て目が合うと、ふっと息を吐き出すかのように笑って、狛の足は止まった。
私からするとずっと見ていたわけだが、狛からすると初めて私を認識したことになるはずだ。
私を恐れるとか、ないのだろうか?
私の今の姿は血まみれでもなければ足がないわけでもないけれど、それでも幽霊であることに変わりはない。
それを初めて目の前にしたとき、人間は果たして今のように笑えるものだろうか。
ちょっと前までは無口で無表情だったのに、やけに饒舌で表情豊かだ。
さっきまで見ていた人は、別人だったのでは。
…それか、二重人格。
そう思ってしまうほどに、なんとも不気味だ。
幽霊にすら気味悪がられるなんて、本当に生きてるのかな、この人。
「ようは助けてほしかったんだろ?」
私の思考なんてお構いなしに、目の前の狛は、少し首をかしげて嘲笑うような顔で尋ねてくる。
―――助け?
そうね。あったら少しはマシだったかも。
こんな呪いもなかったかもしれない。
心の中で自嘲しながら、私は無表情で沈黙を貫く。
「だったら…」
私の無言を肯定ととったのか、狛は私に向かって手をのばした。
「俺が助けてやるよ。
だから俺の手を掴め、詩野」
―――詩野。
この人とは話したことがなくて…むしろ、生前ではあったことすらなかったけれど。
それでも、『佐久間』じゃなくて、『詩野』って呼んでくれるんだ…。
幼馴染みですら、名字で『佐久間』って呼ぶようになったくらいなのにね。
本当、笑っちゃう。