ホワイトデーの奇跡【完】
歩道の壁に背中がくっついて
それ以上はもう下がれなくなった。
どうしようっ…じょ、冗談だよね。
この状況に頭が追いつかなくて、思わずギュッと目をつぶった。
すると。
――ふわっ…と
武藤くんの気配とともに
シトラスの爽やかな香りが鼻をくすぐった。
いい香り…。
その香りに、心が一瞬奪われて。
前髪に何かが、優しく触れたことに気づいたのは、武藤くんの顔が遠ざかっていく様子を見てから。