東の彦 外伝
山姥と金太郎
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むかしむかし 京の都のお屋敷に仕えるいわてと言う老婆がおりました。
老婆の仕えていたうら若き姫は 高い階級の姫ではありませんでしたが
笑顔が愛くるしく たいへん綺麗な声の姫でありました。
しかしある時 姫は病に侵され声を失ってしまいました。
それを不憫に思ったいわては さまざまな易師に 病を治す方法を聞き出します。
最後の易師は言いました
「産道の通らぬ 水子の胎児の生肝を煎じて飲ませれば 姫の声を取りり戻すことが出来るであろう」
いわては それを信じ京の都から遠く離れた みちのくの安達ヶ原と言うところまで 辿りつくと
その山の麓に 住処を構えました。
そして ひたすら 人が通るのを待ちました。
妊婦が通るのを待ち続けました。
そんな ある日の暮れの事 若い夫婦がいわての元に宿を乞いに参りました。
夫の鯉はいいこう言います。
「旅をしているのですが、道に迷ってしまいました。妻は妊娠しているのですが
泊まる宿もみつからず どうか一晩 宿をお貸し出来ないでしょうか」
いわては はやる内心をひた隠し 夫婦を親切に招き入れたのでした。
隙を狙ういわてに好機がやってきます。
容体が急変し 激しく苦しみ出した妻を 心配した夫が 医者を呼んでくると
慌てて人里まで 掛けてゆきました。
ここぞとばかりに いわては妊婦を 捉え逆さずりにして 妊婦の腹をひきさきます。
いわては胎児を掴み 笑みを浮かべました。
「漸く漸く 願いがかなった これでこれで 姫が」
すると 逆さ刷りにされた妊婦の衣からお守りが 滑り落ちました。
喜びに高揚させたいわての頬が いっきに色を失います。
それは いわてが昔 行き別れた 実の子に渡した 手作りのお守りでした。
実の娘を 孫を 自らの手に掛けたことを知ったいわては 驚愕し
うろたえます。
現実を受け止められなくなった いわての姿は見る間に 山姥へと化してゆきました。
山姥となったいわては 安達ヶ原の人々を襲うようになって いきました。
噂をききつけた 高名な僧侶が 山姥を退治しにやってきました。
しかし 山姥は思いのほか強く どんな法力も敵いません。
どこまでも追ってくる山姥に法師は絶体絶命に晒された そんな時
法師の目の前に如意輪観世音菩薩が現れこう告げます。
「この桃の木でできた白の真弓を放てば山姥は退治されることでしょう。」
法師は菩薩様から預かった真弓を 早速、山姥めがけて射ると 見事、山姥の胸を貫きました。
桃の香りに包まれた山姥は 苦しみもがきます。
「恋衣 恋衣」
と我が子の名前を呼びながら 崩れ落ちるいわてを憐れんだ如意観世音菩薩はいわてに こう云いました。
「足柄山の大岩に鬼の子供が生まれます。その子供を人の子として立派に育てることが出来たのなら あなたは人に戻ることができるでしょう。」
いわては 大粒の涙を流しながら頷き 深々と頭を下げました。
その後いわては 菩薩様の言う通り 足立ヶ原を下り足柄山へと やってくると
それこそ菩薩様の言う通り 山深く入り込ん大岩に 鬼の子供が生まれておりました。
いわては その鬼の子を金太郎と名づけ我が子、同然に育ててゆくのでした。
そして年月はすぎ逞しい青年へと成長した金太郎は 山のくまやいのししと
相撲をとったりしながら 鍛えていた ある日
そこを通りかかった源頼光に見染められ 頼光の四天王へと加えられることになりました。
頼光に「坂田公時」と名を改められ 渡辺綱、平貞道、平季武に支えられながら
京の都を守り 金太郎はひととなる決意を固めるのでした。
老婆の仕えていたうら若き姫は 高い階級の姫ではありませんでしたが
笑顔が愛くるしく たいへん綺麗な声の姫でありました。
しかしある時 姫は病に侵され声を失ってしまいました。
それを不憫に思ったいわては さまざまな易師に 病を治す方法を聞き出します。
最後の易師は言いました
「産道の通らぬ 水子の胎児の生肝を煎じて飲ませれば 姫の声を取りり戻すことが出来るであろう」
いわては それを信じ京の都から遠く離れた みちのくの安達ヶ原と言うところまで 辿りつくと
その山の麓に 住処を構えました。
そして ひたすら 人が通るのを待ちました。
妊婦が通るのを待ち続けました。
そんな ある日の暮れの事 若い夫婦がいわての元に宿を乞いに参りました。
夫の鯉はいいこう言います。
「旅をしているのですが、道に迷ってしまいました。妻は妊娠しているのですが
泊まる宿もみつからず どうか一晩 宿をお貸し出来ないでしょうか」
いわては はやる内心をひた隠し 夫婦を親切に招き入れたのでした。
隙を狙ういわてに好機がやってきます。
容体が急変し 激しく苦しみ出した妻を 心配した夫が 医者を呼んでくると
慌てて人里まで 掛けてゆきました。
ここぞとばかりに いわては妊婦を 捉え逆さずりにして 妊婦の腹をひきさきます。
いわては胎児を掴み 笑みを浮かべました。
「漸く漸く 願いがかなった これでこれで 姫が」
すると 逆さ刷りにされた妊婦の衣からお守りが 滑り落ちました。
喜びに高揚させたいわての頬が いっきに色を失います。
それは いわてが昔 行き別れた 実の子に渡した 手作りのお守りでした。
実の娘を 孫を 自らの手に掛けたことを知ったいわては 驚愕し
うろたえます。
現実を受け止められなくなった いわての姿は見る間に 山姥へと化してゆきました。
山姥となったいわては 安達ヶ原の人々を襲うようになって いきました。
噂をききつけた 高名な僧侶が 山姥を退治しにやってきました。
しかし 山姥は思いのほか強く どんな法力も敵いません。
どこまでも追ってくる山姥に法師は絶体絶命に晒された そんな時
法師の目の前に如意輪観世音菩薩が現れこう告げます。
「この桃の木でできた白の真弓を放てば山姥は退治されることでしょう。」
法師は菩薩様から預かった真弓を 早速、山姥めがけて射ると 見事、山姥の胸を貫きました。
桃の香りに包まれた山姥は 苦しみもがきます。
「恋衣 恋衣」
と我が子の名前を呼びながら 崩れ落ちるいわてを憐れんだ如意観世音菩薩はいわてに こう云いました。
「足柄山の大岩に鬼の子供が生まれます。その子供を人の子として立派に育てることが出来たのなら あなたは人に戻ることができるでしょう。」
いわては 大粒の涙を流しながら頷き 深々と頭を下げました。
その後いわては 菩薩様の言う通り 足立ヶ原を下り足柄山へと やってくると
それこそ菩薩様の言う通り 山深く入り込ん大岩に 鬼の子供が生まれておりました。
いわては その鬼の子を金太郎と名づけ我が子、同然に育ててゆくのでした。
そして年月はすぎ逞しい青年へと成長した金太郎は 山のくまやいのししと
相撲をとったりしながら 鍛えていた ある日
そこを通りかかった源頼光に見染められ 頼光の四天王へと加えられることになりました。
頼光に「坂田公時」と名を改められ 渡辺綱、平貞道、平季武に支えられながら
京の都を守り 金太郎はひととなる決意を固めるのでした。