君しかいらない~クールな上司の独占欲(下)
「あちゃあ~」
こういう話の大好きな同期、石本彩(いしもとあや)が、軽く揚がった天ぷらを食べながら言う。
「多いよね、入っただけで何かを手にした気になってる新人」
「そういうタイプでも、ない気がするんだけどね…」
なんだかぐったりしながら、お吸い物に手をつける。
「ぜひ新庄に伝えて、反応を見たいね」
「やめてください」
そう、なぜか、堤さんと3人でランチ中なのだ。
彩とエントランスで待ち合わせて外に出たら、外出から戻ってきた堤さんと行き会った。
『今から食事? ごちそうするから、僕につきあってよ、たまには綺麗どころと食べたい』
にこりと笑う堤さんに、ちゃっかり者の彩が即座に乗った。
「堤さんて、けっこう普通じゃん、恵利」
「石本さんも、聞いてたよりずっと普通だよ」
何を聞いたんですか、そっちこそ、という鋭い視線が交わされる。
私、堤さんに彩の話なんて、したことあったかな…。
もしかしたら新庄さんと堤さんは、私の知らないところで、けっこう交流しているのかもしれない。
ちなみに、自ら、新人にコナかけられましたなんて話をしたわけではない。
気に入られてるみたいだけど、と堤さんが持ちかけてきて、その後はふたりからの質問攻めで、芋づる式に話させられるハメになったのだ。