君しかいらない~クールな上司の独占欲(下)
「お姉ちゃん、ごめん、1個もらっちゃった」
家に帰ると、妹の奈保(なお)がトイレを指さして、手を合わせた。
結局、親も納得する部屋が見つからず、4月から一時的に私の部屋から大学に通っているのだった。
「いいよ、買い足しとくから、使って」
「急に来ちゃったよ。お姉ちゃんのがうつったかなあ」
あるある、と答える。
私も昨日から始まっていて、ということはつまり、新庄さんとのチャンスがつぶれはじめて、1ヶ月がたったということだ。
毎回、未遂どころではなく、かなり冒頭で打ち切られているから、中途半端というにも足りなすぎる。
それでも、抱きしめられるたびにドキドキして、少しでも肌が触れるだけで、毎度毎度バカみたいに幸せになって。
いい加減、くたびれてきた。
「今日ね、よさそうな部屋があったの。週末に内覧できるんだって」
「ほんと、じゃあ一緒に行ってあげる」
やったあ、と笑う顔は、まだ幼い。
私が高校を卒業して実家を出た時、奈保はまだ10歳で、一緒に遊んだ記憶もあまりないから、妹というより、もはや親戚の子という感じだ。
けどやっぱり女の子だけあって、高校に入ったころからみるみる娘らしくなり、実家に帰るたびに、その成長ぶりにびっくりしていた。
1Kの部屋にふたりというのは、かなり手狭だけど、女同士で、しかも妹だとあまり気にならない。
家の教育方針で、お互い小さい頃から家事全般をこなしてきているため、私が奈保の面倒を見る必要もない。
洗濯も掃除もしておいてくれるし、むしろいつまででもいていいよ、という気分だった。