君しかいらない~クールな上司の独占欲(下)
3月の半ばくらいまでわりと余裕のあった新庄さんは、そこから急激に忙しくなった。
もともとそれを見越しての休息月だったので、覚悟はしていたけれど。
土日は、片方休めれば御の字。
外出と出張ばかりで、会社にもいない。
会社にいても、帰るのはたいてい日付が変わってから。
それでも、その隙間を縫っては、会ってくれる。
なのに毎回残念な結果で、なんだかそのうち新庄さんに「もういいや」と思われてしまうんじゃないかと、不安にならないでもない。
そう思っていたところに、電話が来た。
『小休止だ。今週は土日とも空く』
「ほんとですか」
思わず声が弾む。
クライアントの会社から帰る途中だった。
新庄さんが、勤務時間中にプライベートの電話をしてくるのは、すごく珍しい。
もしかしたら、初めてかもしれない。
よほど時間がとれないんだろう。
一緒に来ていた高木さんと三ツ谷くんから少し離れて歩く。
「日曜の午後は、妹につきあうことになってて」
土曜でもいいですか、と訊くと、うん、と答えが返ってくる。
少し疲れているみたいなので、会うのは、午後遅くからにした。
『行きたいとこ、考えとけよ』
「近場をドライブして、あとは新庄さんの家がいいです」
あまり疲れさせたくないと思って、そう即答したんだけど、よく考えると、まるでその気満々みたいな発言だった気がして、あせった。