君しかいらない~クールな上司の独占欲(下)
「こっちが前回出した修正。まずはこれと照らしあわせて、修正が反映されているか、確認してください」
「はい」
大型の物件なので、立ったままテーブルに広げ、並んでそれを確認する。
少し教えると、すぐに三ツ谷くんはコツをつかんで、赤ペンの小気味いい音をさせながら校正を進めはじめた。
私、新人の時って、こんなに飲みこみよかったかな、と振り返る。
考えるけど、自分ではよくわからない。
たぶん、毎日がいっぱいいっぱいで、なんとか先輩に引っぱってもらった感じだったと思う。
新庄さんは、当時製品チームの営業で、接点はあまりなかった。
だから、実は第一印象も覚えていない。
だって配属されて最初の顔合わせなんて、緊張で頭は真っ白だ。
「微妙とか言ってたわりに、泊まるんじゃないですか」
三ツ谷くんは、人の隙を突くのが、うますぎる。
校正の手を休めずに、さらりと。
私はごまかすこともできなくて、ただ目を泳がせていた。
「聞こうとしなきゃ絶対聞こえない距離だったから、高木さんは大丈夫ですよ」
心の中を完全に読まれている。
三ツ谷くんは、手をとめると私を見て、ちょっといたずらっぽく笑うと。
「聞かれたくないってことは”新庄さん”て、社内」
かつ、高木さんの知ってる人ですか?
…なんて、鋭いんだろう。
生意気な笑みに、腹が立つ。
生意気ったって、同い年なんだけど。