君しかいらない~クールな上司の独占欲(下)
絵里さんは、栄養のえの字も意識しない新庄さんのために、冷凍できる料理をこうしてちょくちょく差し入れに来るそうだ。



「彼女がいる間は遠慮するんだけど。新しい子ができたって、聞いてなかったから」

「言わないだろ、普通、妹に」



さっさと帰れ、と言い続けていた新庄さんも、もうあきらめたらしく、買ってきたウイスキーを飲んでいる。

どのみち、ここで絵里さんが帰っても、はい再開、とはならないだろう。

こうなったら、私もおしゃべりを楽しみたかった。


絵里さんが、私も吸っていい? と私に断って、バッグから煙草を取り出した。

綺麗なピンクの、細長い箱。


新庄さんが、キッチンのカウンターから、もうひとつ灰皿をとって、絵里さんの前に置く。

派手だけど趣味のいい爪を揺らして、絵里さんが1本くわえると、当然のように新庄さんがそれに火をつけた。


兄妹なのに同い年って、どういう感じなんだろう。



「今季のうちの戦略、見ててどう」

「マスをメガブランド一本に絞ったのは、潔いと思ったな」

「競合も同じことしはじめたし、結局、狭いとこの取りあいになってきた感じ」

「まだ、お前んとこのゴリ押し勝ちだろ。嫌ならイチ抜けしたらどうだ」

「タレント契約してるうちは、手を引くのもためらう」

「本末転倒だろ。代理店をうまく使えよ」



そうなのよね、と絵里さんが言う。

こんな兄妹の会話もあるんだ、とワインを飲みながら聞いていると、貴志のどこがよかったの? といきなり訊かれた。

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