君しかいらない~クールな上司の独占欲(下)
三ツ谷くんはここに残って説明を聞いてもらうことにし、私は急いでフロアへ戻る。

TVと新聞の担当者たちが、慌ただしく連絡を取っていた。


それを見た瞬間、ふと、新人時代の記憶がよみがえってきた。

当時、CFで使っていたタレントの不祥事が原因で、全媒体で露出中止になったことがある。

今思えば、それはかなりの緊急事態で、一秒を争って対応をしなければならない事態だったんだけど。

教育係であるブラザーがたまたま不在で、私はひとり、何をしたらいいのかわからずにいた。


その時、助けてくれたのが、新庄さんだった。

もしかしたら、それが私の、一番古い新庄さんの記憶。

チームが違うにもかかわらず、戸惑う私を見つけて、的確な指示をくれた先輩。


あの時の新庄さんは、今の私と同じ歳。



(私…)



私には、まだ。

後輩を持つ資格なんか、全然ない。


クライアントの雑誌担当である小出さんに電話をしながら、急速に気分が落ちこむのを感じた。




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