君しかいらない~クールな上司の独占欲(下)
いよいよ、5月の連休に備えて、いろいろと仕事が詰まってきはじめた。
その週の半ば、私は雑誌の撮影のため、3日間、郊外のスタジオに缶詰めになった。
6月に、空港の新設ターミナルで展開する、スマートなアイテム雑誌とコラボした大掛かりな広告がある。
それとタイミングを合わせて雑誌にはさみこむ、別冊の制作のためだ。
いよいよ最終日という今日、連泊していたホテルでチェックアウトをしている時、堤さんから電話がかかってきた。
『午後、三ツ谷君を行かせるから、よろしく。いろいろ見せてあげてくれるかな』
「…了解です」
『毅然としてなさい』
優しい声だけど、きっぱりと言われた。
堤さんは、私が振り回されていることに、気づいてる。
情けなくなって、はい、と我ながら力ない返事をした。
三ツ谷くんは、予定していた時刻、ぴったりに来た。
ひと段落したら、小出さんや雑誌社の営業さん、クルーたちに紹介しようと、スタジオの端で見学していてもらう。
さすが空気の読める彼は、物音ひとつ立てずに、緊迫した現場を見守っている。
私は、コンテのコピーを渡して、小声で、今、どこの部分を撮影しているのか説明した。
三ツ谷くんはうなずくと、撮影に視線を戻す。
面白そうに見る彼の眼鏡に、撮影の光が反射している。
興味津々の態度が、フレッシュですごく好感が持てて、少し安心した。
15時ごろ、休憩をとることになった。
大きなテーブルにお菓子やお茶を並べて、小出さんたちにくつろいでもらう。
「いいなあ、新人さんとか、爽やかで」
うちも入らないかなー、と甘党の小出さんが、パイをかじりながら笑う。
クルーたちもみんな顔なじみなので、ぴりぴりした撮影から一転、こういうひとときは、にぎやかだ。