君しかいらない~クールな上司の独占欲(下)
「みなさん、泊まりこみですか」
「そうだよ、近所のホテルに全員」
三ツ谷くんの質問に、今日、朝まで飲んでた奴もいるんだよ、とカメラマンが暴露すると、何名かが慌てる。
撮影終了のメドがついてきたこともあり、みんな少し気が楽になっているみたいだ。
「雑誌の撮影って、いつもこんなハードなんですか」
「別冊はボリュームもあるし、商品の都合上、スケジュールが限られてくるから、わりとね」
私が答える。
空港の企画は初めてだけれど、この雑誌で別冊を作るのは、ほぼ毎年の恒例となっていて、私も何度か、徹夜の校正作業を経験している。
すると小出さんが、しみじみと言った。
「何年か前、ホテルに戻る時間もとれなくて、スタジオに泊まりこんだこともあったよ、新庄さんと」
うわ。
思わず身体をこわばらせる。
思ったとおり、三ツ谷くんが、面白がるような顔をして、こちらを見た。
「新庄さんって、どなたですか」
わざと、私に訊いてくる。
私は手元の飲み物に目を落とした。
「林田さんの前に、メディアのチーフだった人」
「今は、どちらに?」
もう、憎たらしい。
けど答えるしかなくて、マーケ、と返事をした。
小出さんが、さらに言う。
「すごく頼もしいんだけど、鬼でね。うちの社内が意思統一できてなかったりして、無意味な修正が続いたりすると」
たちまちそれを見抜いてさ、と思い出し笑いをしながら、声を低めて声真似をする。
「『小出さん?』って、それだけ言うんだよね。それがもう、ほんと怖くて」
クルーたちから笑いが弾けた。
三ツ谷くんも、合わせて笑っていた。
こんな時じゃなかったら、私も一緒に笑いたかった。