君しかいらない~クールな上司の独占欲(下)
「昨日から、煙草がまずいと、思ったら」
来やがった、と悔しそうにつぶやく。
煙草を吸う人って、そんなところで体調がわかるもんなのか。
「ベッドで寝てください。私、必要なもの買ってきます」
新庄さんは、身体を起こすと、前かがみになって、額に手をあてた。
しばらくその恰好でいると、ようやく「そうさせてもらう」と言って、おっくうそうに立ちあがる。
「冷蔵庫、開けますね」
声も出さずに、小さくうなずいたのを了承ととって、白い扉を開く。
見事に何もない。
冷凍庫に、絵里さんが持ってきたとおぼしき保存容器と、コーヒー豆があるくらい。
後は、バターなどの常備品しかない。
どうやって生きてるんだろう、と不思議になりながら、とりあえずスポーツドリンクと氷を買ってこようと決めた。
軽くノックをして寝室に入ると、倒れこんでそのまま、という感じの恰好で、新庄さんがベッドに横になっている。
「新庄さん、食欲は?」
小声で訊くと、枕に顔をうずめて、小さく首を振る。
「お薬は」
嫌だ、というくぐもった声が返ってきた。
「ちゃんと、お布団に入ってくださいね」
一応そう言い残して、買い物に出かけることにした。