君しかいらない~クールな上司の独占欲(下)
玄関に置いてある鍵を、心の中で断って借りていく。
これがないと、またインターホンで起こしてしまうことになる。

このマンションは、会社からは40分近くかかるものの、高速の入り口がすぐで、目の前の駅には、24時間のスーパーがある。

コンビニも薬局も、固まっている。
そして、すぐ隣の駅が、新幹線に接続している。

物件を選ぶ際の新庄さんの優先順位が、すごくよくわかる立地だった。
まあ、当時の彼女の条件も混ざっているだろうけれど。


『あー、来たかー』


水やドリンク、もし食べられた時のために果物などを買いながら、絵里さんの名刺にあった番号に連絡した。


『1、2年に一度くらい、あるのよ。普段風邪ひとつひかないぶん、まとめてドカンとくるの』
「どのくらいで治りますか…?」
『数日寝てれば治るから、心配しなくて大丈夫。一応、今日は泊まってってあげてくれる?』


私は、それが無理なんです、と事情を説明した。


『じゃあ、今夜様子を見にいくわ。ごめんね、厄介な兄で』


明るく言ってくれる絵里さんに、私こそすみません、と謝って電話を切る。

そうか、たまにあることなのか。
それなら、とりあえずは安心だ。

たまりにたまった疲れが、一気に出るんだろう。
仕事ぶりだけ見ているとサイボーグみたいな新庄さんだけど、やっぱり人の子なんだと、妙にほっとした。


音を立てないように、買ってきたものを冷蔵庫に収めると、寝室をのぞく。
新庄さんは、Tシャツ姿になって、言ったとおりにちゃんと布団に入っていた。

ジーンズが椅子の背にかかっているから、楽な格好に着替えたか、脱ぎっぱなしのどちらかだろう。

横向けた身体を、うずくまるように丸めている。
こんな寝かたをしているところを、見たことがない。

本当に、具合が悪いんだ。

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