君しかいらない~クールな上司の独占欲(下)
三度目は、忘れもしない。
3月の末の、新庄さんの誕生日。
ちょうど日曜だった。
都内で食事をごちそうして、最近傷んできた、と言っていた名刺入れをプレゼントした。
お酒を飲むつもりで車を置いてきた新庄さんと、私の部屋で抱きあう。
プライベートの携帯はちゃんと切っておいたので安心していたところ、今度は仕事用の携帯が鳴った。
見ると、堤さんからの着信。
夜中に、上司から電話が来たら、何事かと思う。
気づいてしまった以上は、とらないわけにいかず、なんとなく床の上で姿勢を正して出ると。
『遅くにごめんね、新庄いる?』
あまりに普通にそう言われて、ついなんの疑問も持たず、ベッドの上から手を伸ばす新庄さんに、はいと渡す。
うつぶせて、けだるそうに髪をかきあげながら、新庄さんが冷たい声で出た。
「たいした用なんだろうな」
『やっぱり一緒にいたんだね、ハッピーバースデー、新庄』
気楽な声が、携帯に耳をつけている私にも聞こえてくる。
『邪魔するつもりで電話したんだけど、うまくいってると思う?』
最後まで聞かずに、新庄さんは無言で電話を切った。
そのまま持たせておいたらへし折られそうで、私は急いで携帯を取り返した。
この後、続けようと思えばできただろうけれど、堤さんの声を聞いた後では、新庄さんはとてもそんな気になれないらしく。
朝から仕事をしてきた彼は、それなりにくたびれてもいて。
少しおしゃべりをして、眠りについた。