君しかいらない~クールな上司の独占欲(下)
「基本的に、仕事というのは、誰がやってもいい。逆に、そうなっていないなら、組織に欠陥があるってこと」
だけど、と続ける。
「それでも、個性や相性で、結果には違いが出る。それは、他の人では代われない」
私はまた、自分のひざに目を落としてしまう。
私にも、そういうのが、あるだろうか。
私にしか、できないことが。
「たとえば、なんだろう、って?」
「はい…」
「それは、他人に判断してもらうことだと僕は思ってる」
他人に、判断してもらうこと。
そうか…。
顔を上げると、堤さんが、諭すように微笑んだ。
「営業なら、自分の価値くらい、相手の態度から読みなさい」
そう言って、空になったらしい缶を持って立ちあがると、ドアのほうへ向かった。
「まあ、ひとつ言っとくなら」
見送るために、私も腰を上げて、堤さんの隣に立つと。
堤さんは、にこりと笑って、私を見おろした。
「生意気な子にちょっと振り回されたところで、大塚さんの評価は下がらないよ、今のところ」
屈辱だろうけどね、と言って、ノブに手をかける。
屈辱、という的確な表現に、思わず笑ってしまう。
「ありがとうございます」
「結果で返してくれたらいいよ」
わざと冷たくそう言うのに、また笑う。
おやすみ、と言って堤さんがドアを開けると、廊下に三ツ谷くんが立っていた。