君しかいらない~クールな上司の独占欲(下)
「…あれ?」
たった今ノックをしようとしていた、という恰好で、三ツ谷くんが硬直する。
そりゃ、硬直もするだろう。
彼が、堤さんの後ろにいる私に、視線を走らせたのがわかる。
「なに?」
なぜか、私でなく堤さんが訊いた。
「大塚さんのスタッフパスを、高木さんから預かったんです。高木さん、明朝は別行動らしいので」
そうだ、今日の夕食で受けとるはずが、忘れていた。
ありがとう、と言って腕を伸ばすと、それで空いた私の脇に、堤さんが手を回してきた。
ぐいっと抱き寄せられて、仰天する。
「彼女の相手、知ってる? 相当手ごわいから、本気なら腹くくらないとね」
私を脇に抱いて、楽しそうにそう言う。
三ツ谷くんは、私たちを見て目を丸くした後、気丈にも、こう言った。
「そりゃ、大塚さんの相手なら、手ごわいでしょうね」
「会いたいなら、人事に手を回して、研修先に、マーケを入れてあげるよ」
ちょっと、やめてよ!!
心の中で悲鳴をあげる。
三ツ谷くんは、受けて立つ気らしく、ぜひお願いします、と不敵に笑った。
堤さんは、明らかにそれを喜んで。
「うちでの研修が終わるまで、いい子にしてたら、考えてあげるよ。まあ、大塚さんにちょっかい出すのは」
最低8年は、早いかもね。
そう言い残すと、ぽいと私を放して、自分の部屋へと戻っていった。
私はもう、その後をどうまとめたらよいのかわからず。
悔しそうに堤さんの背中を見送る三ツ谷くんからスタッフパスを受けとって、また明日ね、と言うのが、精一杯だった。