君しかいらない~クールな上司の独占欲(下)
たぶん新庄さんは、おつかれ、と言ったんだと思う。
歯ブラシをくわえていたので、よく聞こえなかったけれど。
帰り道、具合を尋ねるメールを送ると、意外にもすぐに返信があった。
開いてみると『微妙。』という内容で。
たぶん、そこそこ回復したんだろうと想像がつく。
帰りに寄ってもいいかと訊くと、いいけど寝てたらすまん、という返事があった。
別にそれならそれでかまわないので、寄るだけ寄ろうと思って、来たのだった。
迎えに出てくれたのは、予想に反して元気そうな姿で。
シャワーを浴びたところらしく、小ざっぱりとして、髪がまだ濡れている。
「何か食べました?」
「いや、さっき起きたばかりだから」
洗面所の新庄さんに声をかけると、水音にまじって、ようやくはっきりした言葉が返ってきた。
寝すぎて痛い、と首を回しながら、リビングへ戻ってくる。
「少し、やせましたか」
「丸二日、何も食ってないからな」
身体がフワフワする、とのんきに恐ろしいことを言うので、昨日買っておいた果物を冷蔵庫から出した。
「悪かったな、昨日」
リビングのローテーブルで、ぱしんといい音を立ててりんごを割る。
むきながら、訊いてみた。
「どこまで覚えてます?」
「どこまでって?」