君しかいらない~クールな上司の独占欲(下)
ラグにあぐらをかいて、昨日のぶんの経済新聞を開きながら、新庄さんが訊いた。


「来てすぐ帰ったんじゃないのか」
「まあ、そんなところです」


なあんだ。
手を握ってくれたのは、覚えてないのか。


「何か、話があったんだろ、聞くよ」
「え?」


私、そんなこと言ったっけ。
新庄さんは、違うのか、と眉を上げた。


「ここんところ変だったし、出張前に会おうとか、珍しかったから」


何か、相談でもあるのかと思った。

そう言う新庄さんに、私は本当にこの人が好きだなあと実感して。
やっぱり上司運がいいなあと思った。


「じゃあ、訊きたいことがあるんですが、答えてもらえます?」
「うん」


八つ割りにしたりんごをひとつ、フォークに刺して差し出す。

パスタとかの、普通のフォークだ。
この家には、デザートフォークなんて用途の狭いものは存在しないので、仕方ない。

新聞に目を向けたまま、新庄さんがそれをかじる。


「私のどこが好きですか?」


< 55 / 89 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop