君しかいらない~クールな上司の独占欲(下)
寝室に引っぱりこまれて、ドアに乱暴に押しつけられる。
立ったまま、いきなり噛みつくようにキスをされるのから、必死に逃げる。

顔をそむけると、首筋にされる。
一日、屋外のイベントで立ち仕事をしてきた身体に、冗談じゃない。


「私、ちょっと寄っただけなので」
「別に、この後予定もないだろ?」
「シャワーとか…」
「後でいい」


後でいいって…。
自分だけ浴びといて、それはないだろう。

力まかせに私を抱きしめて、届くところ全部にキスを降らせる。

もう、なんだこれ!
しつこい腕から逃れたくて暴れると、ふいに解放された。

肩で息をしながら見あげると。


「本当に嫌なら、やめる」


私の耳から後ろへ、ゆっくりと髪を梳きながら。
憎らしいくらい優しい、真摯な顔で、そんなことを言う。

ずるい。
嫌なわけ、ないじゃないか。

そんな気持ちを読みとったのか、新庄さんが少し意地悪く笑った。


「ムードだっけ?」


私は、軽く頭に来ていたので、そっぽを向いて答えずにいた。
具体的には、と訊きながら、新庄さんが、私の頬や額に、柔らかくキスを落とす。


「…好きって、言ってくれるとか」


どうせ茶化されると思って、投げやりに答えると、頬に両手が添えられて、上を向かされた。

優しい瞳と、目が合う。


「好きだよ」


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