君しかいらない~クールな上司の独占欲(下)
修正事項を自分用のラフに書きとめる。

小出さんが次のチェックに移った時、三ツ谷くんがあっけにとられたような顔で、こっちを見た。

こんなにすぐ、自分の意見が通ると思わなかったんだろう。
私は彼に笑いかけて、小出さんと同じページを確認する作業に戻った。

ね、面白いでしょ。

こうやって、考えたことが、いろんな人の力で実現して。
それを、何十万人ていう人が、見て。

もしかしたら、それに影響されて、商品を買ったり、ブランドを好きになってくれたりするかもしれない。

この面白さを、私は4年、味わってきた。
どうか、それをわかってね。




「小気味いいですね」
「みんな、プロだもん」


帰り道、春の薄い青空の下で、三ツ谷くんが気持ちよさそうに言った。


「違いますよ、大塚さんが」
「え?」


振り返ると、涼しげな顔がこちらを見る。


「研修に入った時から、痛快な仕事ぶりだなあと思ってて。丁寧なんだけど、てきぱきしてて」


…そんなふうに、見ててくれたんだ。
結局、私が卑屈になってただけか。


「イメージどおりでした」
「イメージ?」


思わず聞き返すと、絶対覚えてないでしょうけど、と三ツ谷くんが笑った。


「俺、リクルーターの説明会で、大塚さんの話を聞いてたんですよ」
「リクルーター…」


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