君しかいらない~クールな上司の独占欲(下)
確かに、2年目の終わりくらいに、人事からの要請で、大規模な新卒説明会に行ったことがあった。

仕事内容とかやりがいとか、そういうことを話して、学生からの、けっこう鋭い質問に答えたりした。


「俺も正直、入社するまで忘れてたんですけど。6部に研修に来て、ああ、あの時の人だって」


そうか。
じゃあ、私は、少なくとも、この会社を受けたいと思う人の、邪魔をしなかったんだ。


「楽しそうに話す人だなと思ってました」


そしたら、やっぱり楽しそうに働いてた。

その言葉に、胸が熱くなる。
私、そんなふうに働けてたかな。

駅の階段を下りはじめた時、思い出したように、三ツ谷くんが言った。


「来月の研修は、マーケです」


うわっ、決定したのか。


「新庄さんのチームかはわからないけど。もし一緒になれたら、勉強してきます」
「頑張ってね…」


にこりと笑う不屈の精神に、もうそれしか言えなかった。

マーケは、人気はあるけれど、新人がいきなり入れるような部署ではない。
経緯はどうあれ、研修であそこをのぞけるのは、かなりラッキーなことだ。


「とりあえず、新庄さんに負けたと思うまでは、あきらめないでおきます」


まだそんなことを言う彼に、思わず笑う。
彼の目に、新庄さんはどう映るんだろう。


「負けたと思うと思うよ」


臆面もなく言ってみると、ごちそうさま、と三ツ谷くんが皮肉に眉を上げた。

そういう顔に新人らしさはなくて、やっぱり同い年だなと感じて。
こういう関係も、面白いかも、とようやく思えた。

ごめんね、と心の中で謝る。

なんとかやってみたけれど、私はきっと、あまりいい先輩じゃなかった。
縁のある部署に配属されたら、また一緒に仕事できるといいね。

今度は、楽しく。





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