君しかいらない~クールな上司の独占欲(下)
「お姉ちゃん、新庄さん来たよ」
「ええっ?」
どこへ行ったのかと思っていた奈保が、部屋に駆けこんできた。
私は時計を腕にはめて、バッグを持つ。
「なんであんたが、新庄さんを知ってるのよ」
「車の音がしたから。恵利の妹ですって言ってきた」
名前すら、教えていなかったはずなのに。
この子、こんなんで、来月からひとり暮らしとか、大丈夫なんだろうか。
1階のコンビニの駐車場に、見慣れた黒い車がある。
エンジンが切ってあるので見回すと、新庄さんは、灰皿のある場所に立って、煙草を吸っていた。
「新庄さん、すみません、妹が」
「いや。あんまり、似てないな」
なぜかくっついてきた奈保が「あたしは、母似なんで」と少し照れながら言う。
こんな子供に、新庄さんが、わざわざ名乗ってくれたのか。
「奈保、あんたも約束あるんでしょ」
「どこか行くなら、送っていこうか」
ほんと、と言う妹と、そんな、と言う私の声が重なる。
新庄さんが笑った。
「どこ」
「12時に青山なんですけど…間に合う?」
楽勝、と新庄さんがうなずくと、なぜか奈保は顔を赤くして、バッグ取ってくる、と部屋に戻っていった。
ガラ悪そうってのは、どこ行ったのよ。
「無邪気だな」
新庄さんが、感心したように言う。
夏みたいに暑い今日、彼は黒いポロシャツをシンプルに着こなしている。
服の上からでもわかる、無駄肉のいっさいない身体が、やけに色気があって、この人ほんとにかっこいいな、と改めて眺めた。