君しかいらない~クールな上司の独占欲(下)
「私と兄が甘やかしちゃったんで、もう、我が家のお姫さまで」
「あんな妹なら、俺もほしい」
「なんだかんだ、絵里さんと仲良しじゃないですか」
奈保がいる間、指に挟んだまま下げていてくれた煙草の灰を落とす。
それを吸いながら、ずっと一緒だったからなあ、と言った。
「ずっと?」
「幼稚園から、大学の学部まで」
狙ったわけじゃないけど、とため息をつきながら言う。
「新庄さんて、大学どちらでしたっけ」
聞けば、全国でもトップレベルの、私立の経済学部だった。
そうか、だから横浜がホームなんだ。
あそこの経済は、2年間は横浜のキャンパスに通うはずだから。
そう言うと、うなずく。
「沿線で、ふたりで暮らしてた」
「えっ、楽しそう」
「仕方なくだ。親があいつのひとり暮らしを、許さなくて」
あんなの、ひとりでも問題ないと思わないか、と同意を求められて、なんともコメントがしづらい。
息の合う兄妹だと思ったら、一緒に暮らしてたのか。
文句を言いつつ、いいお兄ちゃんなんじゃないか。
「私も、奈保と住めばよかった」
「あの感じだと、ちょっと心配だもんな」
そうなんです…と言っているところに、当人が戻ってきた。
新庄さんが、煙草を灰皿に落として、車に向かう。
「今からだと、かなり早く着くよ。どこか寄りたい?」
スカイツリー! と、新庄さんが開けてくれたリヤドアから、遠慮もなく乗りこみながら奈保が即答する。
じゃあ、見ながら行こう、と微笑む新庄さんの声は、ごく自然に優しくて。
なんだそれ、と、私は、複雑な気分になったのだった。