妬こうよ、そこはさ。
「ねえ、離して」


返事が来ないのは知っているけど、とりあえず声をかける。


「ん、きみにこーひーをあげよう……」

「…………くれるなら紅茶がいいかな」


駄目だ、やはり聞いていない。


しかも私の服を掴んだまま寝返りまで打った。


そして気持ちよさそうに眠りこけている。


当分起きないのは必至で、彼が起きないぶんには構わないんだけど、起きたい私としてはいささか困るのだ。


「…………もう」


服が伸びる、と文句を垂れながら、どこまでも舌足らずに寝言を言い募る彼の手を避けようとしてみたものの、指が外れない。

何故かものすごい力で掴んでいる。


諦めて、頑張って裾を引っ張った。


パジャマが伸びたら彼のせいだ。そうしたら新品を、それもものすごくいいものを買ってもらおう。


布地が千切れてしまわないか不安で、慎重に慎重にひたすら引き寄せていると、十分もかかって、ようやく彼の手から脱出できた。


寝室の扉をそっと閉め、自室で着替えをし、キッチンに立つ。


本当は、今回は彼が当番だけど、疲れているようだから私が代わろう。


お昼に凝ったものを出してくれればいい。疲れているときくらい、ゆっくりして欲しかった。


フレンチトーストを焼き、レタスを大きく千切ってサラダを作り、と料理を進める。


平日休日を問わず、朝ご飯はほとんどお決まりのメニューだ。


パンが主食なのは確定している。


おかずを何にしようかと考えていたところで、扉が開いた。
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