妬こうよ、そこはさ。
嫉妬しても、笑って流してくれるならいい。


でも、もし、軽蔑されたら? 嫌がられたら?

束縛しないで、干渉しないでと、うるさがられたら?


狭量な人だと思われて、彼女に嫌われたくなかった。


耐えられる自信がない、なんて——ああ、女々しいな、俺。


潜めた溜め息を一つ。


彼女がもし、嫉妬なんて隠していたいのにと思ってくれているのなら、こっちも言いようとか対応の仕方とかがあるんだけどな。

彼女に限って、そんなことを思っていないのは明白だろう。


行ってきますという挨拶が、低迷し続ける思考を遮る。


「行ってらっしゃい」


返事をしないのは変に思われるだろう。慌てて声をかける。


普段通りを装った声は、どこかちぐはぐで、いつもよりぶっきらぼうに聞こえた。
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