妬こうよ、そこはさ。
こういうところも彼らしくていい。


「じゃあ仕方ない」

「仕方ない。仕方ない、けど、悔しいしもったいない」


しかめつらしく頷いてみせる彼。


「そう?」

「だって、せっかく花形なのに……」

「自分で作るときも花形にすればいいじゃない」

「俺の器用さだと、ある意味芸術品になるから無理」


飾り切りにだって、豪華で手の込んだ難しそうな見た目でも、やってみるとそんなに難しくない切り方がいくらでもあると思うけど。

というか、型を使えば早いのに、邪道だなんて意地を張るから。


ひとしきり悶絶していたけど、冷めないうちに食べよう、とどうにか自分の中で折り合いをつけたらしく、彼はようやく準備を始めた。


自分のことだと結構大雑把な対応をするのに、少しでも誰かが絡んだ途端に、彼はひどく丁寧だ。


「そっちで食べていい?」

「いいよ。終わったから大丈夫」


パソコンを閉じて、書類ごと鞄にしまう。


その間に箸が並んでいる。


自分が作った料理だと、自分の分を運ぶ際、彼はまとめて持つ。器用に腕と手で支えて一息で運ぶ。


箸と、ご飯と、味噌汁椀と、と一つずつ分けて運ぶのは、今回作ったのが私だから。


作ってもらったものを粗末に扱えないだろ、というのがその理由らしい。


そういうところも、いい。
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