Rolling Love
「ねえ、しゅうちゃん、しゅうちゃんはわたしのことすき?」
優しい彼は「すきだよ」と答えてくれたものの、その「すき」はやっぱり、わたしが欲しかった「すき」ではなかった。彼の答えは、「おとうさんもおかあさんも、りこも、りこのおじさんもおばさんも、ようちえんのみんなも、せんせいも、みんなすきだよ」という、まさに模範解答と呼ぶべき素晴らしさだったのだけど、わたしはとてもがっかりしてしまった。そのすぐ後に彼が「じゃありこは、ぼくのことすき?」と聞いてきたのに、慌ててしまって「うん」としか答えられず、「そっかぁ、よかった」なんて笑いかけてきた修ちゃんの顔をまともに見られなかった。しゅうちゃんとわたしはすこしだけちがうんだな、と考えられない頭でぼんやりそう思ったことだけは妙に印象深い。
お母さんも修ちゃんのおばさんも、園バスのお迎えには一緒に来ていたはずなのだけど、いつも井戸端会議に花を咲かせていたので、わたしたちのこの会話はたぶん聞いていない。つまるところこの会話は二人だけの秘密で、修ちゃんがこの時のことを憶えているかどうかは分からないけれど、わたしにとっては初恋が実ったのか実らなかったのかよく分からないまま永遠に止まっている、という状態なのだ。
初恋の人。口に出すのは容易いし、はたから見たら幼馴染に恋をするなんてありふれているのかもしれない。だけど、わたしにとっては唯一で特別だった。その証拠に、中学でも高校でも修ちゃんに似た王子様的ポジションの男子は必ずいたはずなのに、そうでなくても「この人、こんないいところがあるんだ、早く誰か可愛い彼女が出来ればいいのに」なんて思う人はいくらもいたのに、そういう人にわたし自身が惹かれることは一切なかったのだった。友達にも「璃子、あんたその歳で恋の一つもできないなんて枯れてるよー」なんてさんざん言われたし、ぶっちゃけた話、自分でもそんな自分に引いていた。
そんな相手と、あと半月経ったら二人で暮らす。何の拷問ですか神様、わたしこれからずっと古傷抉りながら生活しなきゃいけないんですか!なんてベッドの上でもだもだしているところに、ケータイの着信音がぴよぴよと何かを知らせてきた。パッと明るくなったディスプレイに、「メール着信:修ちゃん」の文字が浮かぶ。思わずがばっと勢いづけて飛び起きて、メールアプリを開いた。