Rolling Love
 空港から電車を乗り継いで1時間半。家に着いて、ぱたんと玄関のドアを閉めた瞬間、途端に寂しくなった。今晩は一人。そのことを急激に思い出す。
 実はわたしは生まれてこのかた19年、この家でひとりで一晩を過ごしたことがなかった。お母さんは主婦でいつも家にいるし、実家に帰るときはだいたいわたしもくっついて行っていたし、お母さんが旅行なんかで家を空ける時もお父さんが必ず、どんなに遅くなっても帰ってきてくれた。今更ながら愛されてたんだな、わたしは両親の作ってくれたこの家庭が好きだったんだな、なんて身に沁みる。
 4LDK、決してすごく大きな家ではない。だけどひとりで住むには、あまりにも広い。いつもの家のはずなのに、なんだか落ち着かない。妙にがらんとした雰囲気が異様だ。西日が射してまだ明るいはずのリビングは、とても物寂しかった。まだ17時。明日の今頃には、修ちゃんと二人になるのだけれど、それまでが――明日のお昼ごろまでが、耐えられるか分からないくらい心細かった。ひとりになるって、こういうことなんだ。自分以外の誰も帰ってこない家がこんなに寂しいなんて、忙しすぎて全然想像も出来ていなかった。家事全部一人でやらなきゃいけないとか、家計の管理しっかりしなきゃとか、そういう部分にしか意識が行っていなくて、だからかギャップが凄まじい。
 ひとり暮らし楽しいよ、と明るく話す下宿組の友達もいるし、大学生になったらひとり暮らししたいな、なんて憧れていたこともあった。だけど、想像と現実が予想以上に違っていて、そのことに戸惑う。お父さんが修ちゃんにここに住むように言ってくれたの、正解だったのかも。ひとりで住むのに終わりが見えない状況は、今のわたしにとっては克服できそうになかった。
 
 思わず、修ちゃんにメールしていた。「ひとりでいるの、予想以上に寂しかった。修ちゃん、すごいね」って。そうしたら返ってきたメールには、「明日からは俺がいるから寂しくはないだろ、逆にうるさいかも」なんて書いてきたから、笑ってしまった。明日からの生活に不安もあるけど、ひとりより二人のほうがずっといい。そう噛みしめて、ひとりの夜を耐え抜くための計画を、これまたひとりで練るしかわたしは思いつかなかったので、明日の朝は大好きなフレンチトーストを作ろう、とそれを楽しみにすることで寂しさを紛らわせた。
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