Rolling Love
 そんな感じで黙々と掃除をしていると、1階の廊下で電話が鳴った。ここのところ、あまり家にいる時間が長くなかったせいで、一瞬どきりとする。そうか、私、家の電話が鳴ることも忘れかけていたのか、なんて思いながら階段をダッシュで駆け下りて受話器を取ると、その向こうから聞こえてきたのは4カ月ぶりの声だった。

「はい、小谷です」
『あ、璃子ちゃん?お久しぶり、高原のおばさんでーす』
「おばさん!どうもお久しぶりです」
『受験の報告のときの電話以来かしら?元気そうでよかったわ』
「元気なくらいしか取り柄ないですよ、私。なんちゃって」
『ふふ、変わらないわね、璃子ちゃん。今日なんだけど、1時くらいにはそちらに伺えると思うわ』
「1時ですね、分かりました。じゃあお昼ご飯は……」
『大丈夫よ、お気遣いなく。本当、小谷のおうちにはお世話になりっぱなしになっちゃうけど、うちのをよろしくね』
「いえ、こちらこそ……」
『じゃあ、また後でね、璃子ちゃん』
「はい、失礼しますー」

 電話の主は高原のおばさん――もとい、修ちゃんのお母さんだった。うちの両親と修ちゃんのところのおじさんおばさんは、うちのお父さんと修ちゃんのおじさんが同い年の従兄弟同士ということもあってかなり仲がいい。その一方で、母親同士もよく波長が合うようで、たまに二人で買い物に行ったり趣味のカルチャースクールも同じところに通ったりしていた。修ちゃんのおじさんの仕事の都合で離れた町に住むようになってからも、2カ月に一度は必ず会っていたので、実のところ今回の父の海外赴任でいちばん肩を落としているのが、親戚兼大親友と連絡が取りにくくなった修ちゃんのおばさんかもしれない、というのは何となく察していたのだ。
 
 でもまぁ、お母さんもおばさんも基本的にポジティブな人だから、そこら辺はどうにかしてしまうんだろう。おばさんのことだから、予告なくアメリカに遊びに行っちゃいそうだなぁ、なんて考えながら時計を見たらもう11時半で、そろそろお昼ご飯の支度しなきゃ、と慌てて思考回路を切り替えた。
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