Rolling Love
「……お母さん」
「なぁに?」
「なんでそんな重大なことその日に言ってくんないのよ!信じらんないもう!」

 わたしのお父さんは、総合商社で働くサラリーマンだ。一応、管理職。これまでにも単身赴任をしたことがあったから長い間家を空けるのは不思議ではなかったけれど、まさか海外だとは(しかもこんなに急に決まるとは)思わなかった。壊滅的に生活能力のないお父さんを思うとお母さんがくっついて行くことはわたしの想定の範囲内だったので、それ自体は異を唱えるつもりはない。事実単身赴任をしていた時にお父さんのところに遊びに行ったら、それはもうえらい有様だったのだ。形容するのもげんなりするほどだった。けれどわたしにとって、問題はそこではなかった。そうじゃない、そうじゃないでしょうよお母さん!
 思わず声を荒げたわたしに、お母さんは肩を竦めるでもなく、のんびりとした声で続ける。

「ごめんねぇ、璃子、あの日帰りが遅かったじゃない?疲れてそうだったし、そういう話をするのもどうかと思っちゃったのよ」
「……いいけどさ、もう済んだことだし。で、なんでそこで修ちゃんに繋がるの」
「お父さんがね、璃子ひとりになっちゃうの、すごく心配してたのよ。でね、高原のおうちから修哉くんのアパートの話が出たときにお父さんが電話変わってね、修哉くんをうちに下宿させないかって言っちゃったのよ」
「……お父さんから話持ちかけたわけね?」
「そう。親戚でよく知った子だし安心だ、なんて言って。お父さんと修哉くんとで直接話したんだけど、修哉くん、学費とか仕送りのこと結構気にしてたみたいでね、そこにこの話でしょ?仕送り少なくていいならそっちの方がいい、って了承したみたい」
「嘘でしょ……修ちゃん、そういうの即答するような子じゃないじゃん……」

 一通りの事情が母の口から語られた今、わたしは改めて驚きを隠せなかった。自分抜きでこの話が進んでいたこともそうなのだけど、自分に対して過保護な父が、親戚だからという理由で娘と同い年の男の子を二人で住まわせる、という状況の方がいささか信じがたかった。「璃子が彼氏連れてきたりしたら追っ払う」などと人聞きの悪いことを常々言っているあのお父さんが、修ちゃんは「男」としてノーカン?……その感覚が、いまいち理解できない。
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