すきとおるし
「今年はイチとふたりだよ。きんぎょもスーちゃんも仕事で来られないってさ。イチとふたりっきりなんて最悪」
線香をあげながらゆんが言うから「本当はゆんも来ないはずだった」と付け加える。ゆんは「うるせー」とわたしの背中を叩いて、わたしも反射的にやつの腕を叩いた。それを見た一花さんは「縁ちゃんと優輔くんは本当に仲が良いねえ」と大笑いした。
「一花さん、本当にそう見えます? 俺とイチは犬と猿、水と油。話す度喧嘩してますよ」
「それが仲良しってこと。喧嘩するほど何とやら」
「いや、俺の辞書にそんな言葉はないです」
一花さんとゆんが話している間、わたしは仏壇に、地元で買った菓子折りを供えた。花織は甘いものが苦手だと言っていたから、甘さ控えめのお菓子。地元の名産品だ。できれば生きているうちに食べてもらいたかった。
ゆっくりしていって、という一花さんのお誘いを丁重にお断りして、お墓参りに行くことにした。一花さんは「せめてタクシー代くらい出させて!」とゆんにお金を握らせた。わたしに渡さないのは、去年も一昨年も「いただけません」「いいから出させて!」という問答を繰り返したからだろう。
「良かったらまた来年も来てね。今度はゆっくりしていって」
「はい、是非」
「じゃあ一花さん、ありがたくいただきます」
「うん、ふたりとも元気でね。夏美ちゃんと澄恵ちゃんにもよろしく」
「一花さんも、お元気で」
一花さんに深々と頭を下げ、ゆんとふたり、彼女が呼んでくれたタクシーに乗り込んだ。