今日もそれは鳴らない。


私が彼の言うことを訊かなかったことが、かつてあっただろうか。

「...こんな」

「...え」

「こんな音も鳴らないものが、そんなに大事?」

「...うん」

「どうして?」

「麻里には、わからないよ」

そう静かに言葉を吐いた彼は、またひとつ溜め息を溢し、片手で顔を覆った。


"わからないよ"なんて、そんなの当たり前だ。私は彼じゃないから。彼が教えてくれなきゃ、私はわかる筈もない。



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