「先生、それは愛だと思います。」完
涙が出る前に、もうここを立ち去ろう。これ以上先生のそばにいたら、きっと余計なことを言ってしまうから。
私は、教材が入った重たいバッグを持って、腰を上げた。
「……なんで文ちゃん泣ているの? 好きな人と付き合うことになったんじゃないの?」
「……何を言ってるんですか?」
先生のとんでもないひと言に、私は立ち止まり聞き返したが、先生は無表情のまま話を続ける。
「文ちゃんが誰かとキスしてるところを見た。最初から、好きな人が出来たら別れる契約だったんだから、そんな風に罪悪感なんか感じなくていいのに」
「キスって……、それはっ」
まさか、あの雨の日に祥太郎君といる所を見られていたなんて。でも確かにあれだけを見られたら、勘違いされても仕方ない。
動揺した私は、すぐにあの日のことを弁解しようと口を開いた。しかし先生の耳には、一切届いていない様だった。
「どうして聞いてくれないんですか……どうして、信じてくれないんですか……」
途方に暮れた様に呟くと、〝別れる〟ことは決まっているのに、これ以上話すことなんかないでしょう、と先生は言った。
その言葉に、私の中の何かが一本プツッと切れて、私は気づいたら先生をソファーに押し倒していた。
なんだか、虚しくて、哀しくて仕方なくて、もう先生を好きという気持ちを、どう振り切ったらいいのか分からなくなってしまった。
「じゃあ、もう別れるからなんでも言わせてもらいますけど、先生はなんでいつもそうやって、すぐに無関心気取るんですか、無関心なでいることが先生の逃げ道なんですかっ……」
目頭がじわじわと涙で熱くなってきて、視界が徐々にぼやけだした。
先生は、一瞬目を見開いていたけれど、すぐに私の肩を押して、上体を起こした。
先生と向かい合う様にソファーに座ったけれど、私は先生の胸を本気で一度叩いた。