「先生、それは愛だと思います。」完

「お前今度は顔ゆるみ過ぎだろ」
「え、そうかな」
「すごいいいことあったオーラ出てるの腹立つから何も話すなよ」
「本気で嫌そうな顔しているね」

予備校の帰り道、祥太郎君は本気で顔を顰めて私を鬱陶しそうに手で払った。
夏休みももう終わり、季節は秋になった。
受験モードはより加速したにも関わらず表情が緩んでいた私が癇に障ったのか、祥太郎君は本気で機嫌を悪くしている。

そんなこと言われたって仕方ない。
ずっと好きだった人と距離が近づいたら、ニヤけるに決まってる。
私は今すぐにでも編み物をしたい気持ちを抑えて、口端を人差し指で下げながら歩いた。
と言っても、全てが上手くいったわけじゃない。
心美ちゃんに対して、どうやって説明したらいいのか、どんな風に言ったら分かってもらえるのか……どれだけ悩んでも、答えが出なかった。
何を言っても私は心美ちゃんから先生を奪った悪役だから。

「あ、そういえば祥太郎君、この前貸した参考書今日使いたいから返して」
心美ちゃんのことで少し気分が暗くなったが、私は唐突に参考書のことを思い出した。
「やべ、学校に忘れてきたわ」
「やばい全然許せない」
「いきなり怖い顔になったな……まじですまん……」
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