「先生、それは愛だと思います。」完
この時期に人の参考書を借りて返すのを忘れるなんて……受験生からしたら絶対に許せない行為だ。
般若のような顔をして睨むと、祥太郎君は高校に今すぐ取りに帰ると言った。
時刻は夜の二十時で、辺りはもうかなり暗くなっている。九月後半に入ると少しずつ夜が長くなって、空気も冷たくなり始めた。
正直直帰したかったけれど、もしかしたら高橋先生に会えるかもしれないという下心付きで了承した。


部活の盛んな青葉学園だけれど、さすがにもう生徒は残っていなかった。
職員室だけ明かりがついていて、高橋先生があそこにいるのかも……そう思うと胸がキュッと苦しくなった。
「一緒についてくる?」
「え、中入ってもいいの?」
「こんな夜だし、大丈夫だろ。来いよ、そこに一人でいても危ないし」
門の前で待っていようとしたが、祥太郎君は中に入るよう私を促す。少し戸惑ったが、先生がいる校舎の中はとても興味があったので、恐る恐る彼について行った。
青葉学園の校舎は、私の高校より遥かに綺麗で広かった。さすがトップレベルの進学校なだけある。
スマホのライトを頼りに教室を目指すのは、なんだか探検をしているみたいで、少しワクワクした。
「あ、ここ、俺の教室」
祥太郎君は静かにドアを開けて、教室の中に入った。
祥太郎君は高橋先生のことを知っているのかな……聞きたいけれど、そんなことを聞いて変に勘ぐられても怖いし、祥太郎君は勘が鋭いからやめた方がい。
大人しく彼が参考書を取ってくるのを教卓付近で待っていると、彼は〝あれ?〟と声を上げた。
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